コストを逆算すれば明らか
はっきり言って、原産国表示に限らず混合率(ダウンとフェザーの比率)の表示偽装も含め、20年くらい前から寝具関係者は皆気付いていた事だと思う。
それは、販売価格からコスト分解してどう計算してもヨーロッパ産の羽毛が使える訳がないものが多く市場に出回っていたからだ。オレもそうだが、多くの専門店の方はことあるごととにこの事を店頭でお客様には口頭で伝えていたのではないかな。
どう考えても間違いなく偽装している
表示原産地の疑念は、原産地を特定する試験基準が国際的にもないので、羽毛から原産地を逆算して割り出す事が物理的にできないのであくまで推測に域の話ということになってしまう。また、羽毛メーカーは高級品から安価なものまで幅広く製造している所がほとんどで、この件を指摘する事は直接取引に影響するということになるだろう。
工場は稼働してナンボだから、1000枚単位で大量発注する業者と敵対することは死活問題になってしまうわな。
じゃ、協会や業界団体は・・・というと、そうした工場やメーカーの代表者や責任者が集まって作っている組織だから、第三者的な立場を持って厳しく指摘や指導は同じくできなかったということだろう。
今回の問題は今年5月6日の朝日新聞に「羽毛の産地疑惑」の記事が掲載、「フランス産ダック」と表示したもののほとんどが「中国産」が「中国産を混ぜたもの」である可能性が大きいということだ。
あくまで推測と前置きしてだが、どう考えても間違いなく偽装しているとオレは考えている。そうでないと辻褄が合わないんだよね。
「原産地表示偽装」の問題に関しては、おそらく2−3年前から羽毛が急騰しはじめたあたりから協会や同業者には強い疑念はあったように思う。
ほとんどの原毛輸入会社がビックリするくらい高騰しているのにも関わらず、ある会社だけが何故か異常に安く、むしろ下がっている種類さえあったということ。
そして、その会社の羽毛を使って某4社が製品化し、異常な安価でネットや通販、量販に出回わり、その価格差に業界団体もさすがに動きだし始めていたと聞いている。
朝日新聞の記事掲載は、ある意味、本当にいいタイミングでの情報の開示の切っ掛けになったんじゃないかと思う。
なぜフランス産ダックの偽装なのか
20年前以前はポーランド、ハンガリー、チェコ、ドイツ、デンマーク、中国などの現産地はよくあったがフランス産はほとんど聞かなかったね。たぶん、価格が崩れ始め、メーカーが原産地を開拓していったあたりから台頭してきたのがフランス産ではないかと思う。羽毛は食肉の副産物だから、フォアグラを食すフランスではダックよりグースの飼育が主流だったはずだ。ここ数年の強制給餌バッシングでグースからダックの飼育に変わったんだろう。
フランス産はダック(アヒル)ではトップクラスだが、グース(ガチョウ)も含めた羽毛全体の種類から見れば高級レベルでもない。最も低価格な中国産ダックをフランス産と偽装することで高級品をビックリ価格で販売しようという意図以外に偽装目的はないだろう・・・あくまで低価格のダックの市場競争での話ということになるってことだね。
「ヨーロッパ産はほとんど輸入されてない」は嘘
報道では「ヨーロッパ産はほとんど日本には輸入されていない」というようなことを言っているところもあるがこれは単純に数字を足して比べているだけで全く認識が間違っている。
オレが扱う羽毛は”ポーランド産”と”ハンガリー産”がベースだ。国別輸入比で見るとポーランド産もハンガリー産もそれぞれ全体の3〜4%程度の輸入量だし、ヨーロッパ産をすべて合わせても10%強くらいなんだよね。
中国と台湾を合わせると70%弱を占めるわけだから、数字だけ見ればほとんどヨーロッパ産は誤差の範囲程度と変わりないということなんだが、ヨーロッパ産の羽毛は必ずしも原産国から直接輸入されるものばかりではなく、中国や台湾などのメーカーや商社を経由して輸入されるものもかなり多いため数字的に大きくなっていてこの2国が大半のシェアをしめているという数字になる訳だ。
この表示偽装問題も、中国のメーカー経由で買い付けた「フランス産羽毛」が問題視されているところなんだよね。
また中国かよ・・・って感じだけど、そう言う安価なものを要求したのは日本の商社やメーカーなんだよね。やり方がセコ過ぎるわ!
<Web記事>
5/7朝日新聞「産地偽装、10年前から知っていた 仏羽毛大手社長」
5/8朝日新聞「羽毛布団偽装、原産地証明を書き換えか 中国の加工会社」